児童相談所・福祉機関で働く心理師の仕事とは?業務内容と向いている人の特徴

児童相談所で働く心理師のイメージ

児童相談所(児相)や各種福祉機関は、子どもや家庭の安全と発達を守る最前線の現場です。そこでは、心理師が“子どもの声を聴く専門家”として重要な役割を果たしています。本記事では、児童心理司として働くために必要な資格や経験、主な業務内容、心理的ケアの実際と限界、適性などをわかりやすく解説します。

児童相談所・福祉機関で求められる資格と経験

公認心理師または臨床心理士のいずれかを有していると応募できる自治体が増えており、特に公認心理師の資格は近年ますます重要視されています。

自治体によっては、

  • 心理学系大学院修了
  • 心理実習の経験
  • 子ども・家庭支援領域での勤務歴

を必須または優遇条件としている場合もあります。

福祉機関でも、児童養護施設、障害児施設、母子生活支援施設、乳児院、里親支援センターなどで心理師が働いており、発達評価、行動観察、保護者支援、職員との連携など多様な役割が期待されています。

主な業務①:面接によるアセスメント

児相での心理師の中心的な仕事は、子どもや保護者への面接を通じたアセスメントです。

子どもへの面接

虐待や育児放棄、家庭不和など、背景が複雑なケースが多いため、心理師は子どもが安心して話せる環境を整えながら、

  • 生活状況
  • 心の状態
  • 学校や家庭での様子
  • 親子関係

などを丁寧に聴取します。

子どもは警戒心が強かったり、言語化が難しいことも多いため、プレイセラピー的な関わりや描画、遊戯的手法を用いて信頼関係を築くことが求められます。

保護者面接

保護者の育児ストレス、精神健康、家庭環境、養育能力を評価するのも心理師の重要な役割です。

保護者が虐待を否認したり怒りを示すケースもあり、専門的かつ丁寧な対応が必要になります。

主な業務②:心理検査・発達評価

児童相談所での心理検査は、診断目的よりも支援方針の決定に重きを置くことが特徴です。

よく使われる検査には、

  • WISC/WAIS などの知能検査
  • 田中ビネー知能検査
  • K-ABC
  • 描画テスト(HTP、バウム)
  • 投影法検査(P-Fスタディなど)

などがあります。

心理師は、検査の結果を

  • 養育環境
  • 発達の遅れ
  • 行動特徴
  • 家庭との関係性

などとあわせて総合評価を行い、児相のケースワーカーや医師と共有します。

主な業務③:心理的ケアの実践

心理的ケアは、児相の業務の中でも特に重要です。

子どもへのケア

暴力・虐待・ネグレクトを経験した子どもは、

  • 不安
  • 怒り
  • 自己否定
  • 対人不信

など強い心理的負荷を抱えていることが多く、心理師は面接やプレイセッションを通じて子どもの情緒の安定を図ります。

安心できる大人との関係の中で、子どもが自分の気持ちを表現し、少しずつ回復していくことが心理ケアの中心です。

保護者へのケア

保護者が精神的に不安定、あるいは養育が困難な場合、心理師は保護者のケアにも取り組みます。

  • 育児不安の軽減
  • ストレスコーピングの支援
  • 家庭環境の調整

などが含まれます。

主な業務④:関係機関との連携

児童相談所は「総合相談機関」であり、心理師が単独で支援を行うわけではありません。

現場では、

  • 医療機関
  • 学校
  • 保育所
  • 児童養護施設
  • 福祉事務所
  • 警察
  • 学校カウンセラー

など多くの関係機関と連携して支援計画を作ります。

心理師はアセスメント結果を他職種にわかりやすく伝える役割を担い、チームとして子どもと家族を支える中心的存在となります。

心理的ケアの「限界」について

児童相談所・福祉機関では、心理的ケアが万能ではないという現実があります。

家庭環境の影響の大きさ

どれだけ心理師が丁寧に面接しても、家庭に戻れば虐待が続くケースもあります。心理的ケアだけで状況を変えることが難しい場合も多いのです。

時間的制約

1件の面接にかけられる時間が限られており、継続的な関わりが難しいことがあります。

ケース負荷の高さ

虐待・DV・深刻な家族問題などの重い話題が多く、心理師自身が強い感情的負荷を感じることがあります。

制度の枠組み

心理師の支援は、最終的な措置(一時保護・親子分離など)を決める役割ではありません。法律的な判断はケースワーカーや行政が行うため、心理師の意見が必ずしも最終判断に反映されるわけではありません。

こうした限界を理解しつつ、できる範囲で子どもと家族に寄り添う姿勢が求められます。

児童相談所で働く心理職に向いている人

児相での仕事はやりがいが大きい反面、負担も多い領域です。向いているのは以下のような特徴をもつ人です。

子どもとじっくり関わる姿勢を持てる人

複雑な家庭問題に耐えられる心理的タフさを持つ人

多職種との連携が得意な人

判断力と柔軟性がある人

記録・報告が苦手でない人

子どもの小さな変化を大切にできる人

感情的に巻き込まれすぎず、しかし無関心にもならず」というバランスが求められます。

この仕事のやりがい

最も大きなやりがいは、子どもの回復を目の前で実感できることです。

虐待やトラウマを抱えた子どもが、

  • 安心して話せるようになる
  • 笑顔が増える
  • 学校に行けるようになる
  • 信頼できる大人と出会う

こうした変化に触れられる瞬間は、心理師にとって特別な喜びです。

また、他職種と協働して支援を作る経験は、心理師としての成長にも大きくつながります。

まとめ

児童相談所や福祉機関で働く心理師は、子どもと家庭の未来を支える重要な専門職です。資格や経験が求められる高度な領域でありながら、心理的ケアの限界も理解しつつ、多職種と協力しながら支援を進めていく必要があります。

つらい現場であっても、子どもの変化や家族の改善に携われることは大きなやりがいであり、心理師として得られる経験値も非常に高いものです。

Meg心理師国家試験予備校では、こうした現場理解を踏まえたキャリア支援や学習サポートも提供できます。児童相談所や福祉領域を目指す受験生にも、専門性に基づいたアドバイスを行うことが可能です。

 

監修者

【公認心理師】新田 猪三彦(にった いさひこ)

2007年より心理学や脳科学の講座を行い、医歯薬専門予備校で受験に必要なメンタルの強化法、保育士会調査研究委員会において「保育士・保護者のコミュニケーション講座」、市民と協働によるまちづくり提案事業、産学官包括連携事業などを行っている。
九州朝日放送運営のマイベストプロ福岡でコラムの執筆にも携わり、一人でも多くの人が心が豊かに生活できるように情報を発信している。
また、部活動のメンタルトレーニング、学校を中退した学生の受験・学習支援、受験を見守る保護者の相談、資格試験合格のためのモチベーション管理、タイプ別による学習法のアドバイスなども行っている。
<略歴>
公認心理師 /ふくおか成年後見センターさくら / 福岡コミュニケーションカレッジ講師 / PMD医歯薬専門予備校心理カウンセラー / 日本心理学会認定心理士 / 日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー / 文部科学省所管生涯学習開発財団(神経言語プログラミング)協会認定マスタープラクティショナー / ICA(国際コーチ協会)認定コーチ / カナダSuccess Strategies・Shelle Rose Charvet認定LABプロファイリング・プラクティショナー
・LINEトークCAREカウンセラー
・メンタルゼミ