公認心理師誕生の経緯を解説!〜民間の心理職から国家資格へ

心理職の歴史

心理職の歴史

心理職は医療、教育、産業など様々な分野で活躍しています。ただ、心理職がどんな仕事をしているのか、そもそも心理職とは何なのか分からないという人もいるのではないでしょうか。

私自身も、どんな仕事をしているのか質問された時に、「心理職です」と答えてもピンとこない人も多く、「カウンセラーです」、「心の悩みを聴く相談業務です。」と答えることがあります。今回は、心理職とはどんなことをするのか、そして心理職がどんな歴史を重ねてきたのかを解説していきます。

心理職とは・・・

心理職とは、明確な定義があるわけではありませんが、心理業務に従事している者、心理アセスメントを行う者を指すことが一般的です。

 

心理アセスメントとは

心の問題を抱えるクライアントを援助するために、どのような介入が必要かを査定することです。査定において、心理検査や観察、傾聴などを行うことがあります。

 

そして、心理検査、傾聴、心理療法などを含む広範な心理学的援助を総称して「カウンセリング」と呼ぶことがあります。

心理職としては、公認心理師、臨床心理士、学校心理士、臨床発達心理士など様々な資格があります。その中でも、公認心理師、臨床心理士が有名です。心理職の歴史を語るうえで、重要なキーワードが臨床心理士という資格の名称にもなっている「臨床心理」という言葉です。

臨床心理士になるには、「臨床心理学」を大学院で学び、試験に合格することが必須条件になります。

臨床心理学とは・・・

臨床心理学の定義については、様々な意見がありますが、1998年のアメリカ心理学会において、「臨床心理学は、科学、理論、実践を統合して、人間行動の適応調整と人格の成長を促進し、加えて不適応、障害、こころの悩みの成因を研究し、問題を予測し、かつそれらの問題を軽減させ、解消させることを目指す学問である。」と定義されました。

 

難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと、研究や実践を通して、人の成長を支援したり悩みを軽減したりすることです。

日本においては、カウンセリングや心理療法などを包括して臨床心理学と捉えることもあります。この臨床心理学の始まりが心理職に始まりに大きく影響しています。

臨床心理学という言葉の誕生

臨床心理学という言葉の誕生

「臨床心理学」という言葉は、アメリカの心理学者L・ウイットマーによって初めて使われました。L・ウイットマーは心理学を創始したライプツィヒ大学のヴントのもとで博士号を取得し、1896年、ペンシルベニア大学に世界で初めての心理クリニックを開設しました。

心理クリニックでは、単語の綴りを正しく綴れない子どもが実験室に相談に訪れたことを契機に、心理学の成果を個人の問題の解決に適応していきました。

日本における臨床心理学の始まり

日本において、臨床心理学について本格的に議論されるようになったのは、第2次世界大戦後にアメリカ文化が流入するようになってからです。1964年に、心理職の国家資格化をめざして、日本臨床心理学会が創設されますが、1969年の第5回大会で資格問題をめぐり学会は紛糾しました。

この時代は反権力闘争が盛んだったこともあり、国家資格化により心理職が権力を持つことについて反対の声も強かったようです。その後、心理職の国家資格化は必要だと考える人たちが中心になり、1982年に日本心理臨床学会が設立されました。

 

ただ、すぐに国家資格化を実現するのは難しいいう考えから、民間の心理職の資格をつくることになり、1988年に日本臨床心理士資格認定協会を設立し、「臨床心理士」の資格を認定するようになりました。

この資格ができる前にも「心理職」として活躍していた人はいたと思われますが、「臨床心理士」という資格ができたことで、日本における心理業務の専門家としての「心理職」がスタートしたと捉えることができるのではないでしょうか。

心理職の国家資格へ向けて(二資格一法案)

1991年に始まった厚生省臨床心理技術者業務資格制度検討会はその後も名称を変えながらも継続され,2001年度の厚生科学研究まで6回の研究報告を公表し,最終的な取りまとめ行いました。

  1. 臨床心理技術者の国家資格は必要である。
  2. 資格を必要とする範囲は医療保健領域に限定する。
  3. 医療保健領域での業務には医行為が含まれ,医師の指示を必要とする業務がある。
  4. 国家資格は名称独占資格とし,医療保健領域以外の臨床心理業務を妨げない。

この取りまとめがその後の資格化への動きの基礎となりました。

 

その後,医療における国家資格への具体的な動きが始まり,2004年に医療領域での心理職の資格化を目指した医療心理師国家資格制度推進協議会が設立され,2005年に名称独占の資格として医療・保健機関において医師の指示の下での業務,心理学系四年制大学卒を受験資格とする「医療心理師法要綱案」が議員連盟総会にて承認され,医療心理師の国家資格化が目前に迫りました。

 

一方で2005年に医療を含む横断的な心理職の国家資格化を目指す「臨床心理職国家資格推進連絡協議会」が発足し同時に議員連盟として「臨床心理職の国家資格化を通じ国民の心のケアの充実を目指す議員懇談会」が設立され,横断的な心理職の国家資格法案要綱が公表されました。

 

その結果2つの資格法案が併存することなり,両議員連盟による法案の一本化が行われることとなり,いわゆる二資格一法案と呼ばれる「臨床心理士及び医療心理師法要綱骨子」がまとまり,2005年7月5日に両議員連盟合同総会で承認されました。

しかし,この直後より「医療現場では二つの資格が混在することで現場が混乱する恐れがある」との反対声明が医療関係団体より出され,結果として国会上程が見送られることとなり,その後の国会解散などがあり法案は自然消滅となりました。

 

参考文献:BF 学会心理職の国家資格制度についての報告
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbf/43/2/43_45/_pdf

国家資格として公認心理師発足へ

国家資格として公認心理師発足へ

2008年12月の日本心理学諸学会連合において,心理職の国家資格に向けての活動が決議され,日本心理学諸学会連合の呼びかけにより,臨床心理職国家資格推進連絡協議会,医療心理師国家資格制度推進協議会,日本心理学諸学会連合の三団体による国家資格推進に関する協議団体として「三団体会談」が2009年1月に発足し,心理職の国家資格創設に向けて動きだします。

 

2011年、三団体が国家資格化「要望書」公表、2012年、心理職の国家資格化を推進する議院連盟が発足、2013年『心理師(仮称)』国家資格創設早期実現の請願開始、2013年一般財団法人日本心理研修センターが設立され、2015年9月公認心理師法が公布されます。

その後、2017年9月公認心理師法が施行、2018年9月に第1回公認心理師試験実施され、心理系の最初の国家資格である『公認心理師』が誕生します。

 

参考文献:公認心理師試験研修センター
https://www.jccpp.or.jp/schedule.cgi

まとめ

心理職は、心理業務に従事している人、心理アセスメントを行う人のことで、日本においては臨床心理学を学んでいる。臨床心理学には、広範の意味において、カウンセリングや心理療法が含まれる。臨床心理学を学んだ人たちに対して心理職として国家資格化の動きがあったが、医療現場での反対などもあり一度は頓挫しました。

その後、様々な議論や活動があり、2018年に公認心理師という国家資格が誕生しました。まだ新しい国家資格なので、今後の動向を注視してください。


プロフィール

【公認心理師】新田 猪三彦(にった いさひこ)

2007年より心理学や脳科学の講座を行い、医歯薬専門予備校で受験に必要なメンタルの強化法、保育士会調査研究委員会において「保育士・保護者のコミュニケーション講座」、市民と協働によるまちづくり提案事業、産学官包括連携事業などを行っている。
九州朝日放送運営のマイベストプロ福岡でコラムの執筆にも携わり、一人でも多くの人が心が豊かに生活できるように情報を発信している。
また、部活動のメンタルトレーニング、学校を中退した学生の受験・学習支援、受験を見守る保護者の相談、資格試験合格のためのモチベーション管理、タイプ別による学習法のアドバイスなども行っている。
<略歴>
公認心理師 /ふくおか成年後見センターさくら / 福岡コミュニケーションカレッジ講師 / PMD医歯薬専門予備校心理カウンセラー / 日本心理学会認定心理士 / 日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー / 文部科学省所管生涯学習開発財団(神経言語プログラミング)協会認定マスタープラクティショナー / ICA(国際コーチ協会)認定コーチ / カナダSuccess Strategies・Shelle Rose Charvet認定LABプロファイリング・プラクティショナー
・LINEトークCAREカウンセラー
・メンタルゼミ