心理学基礎の徹底整理と応用力の養成──頻出心理用語10語とその解説
心理系大学院入試の筆記試験、特に専門基礎科目では、広範かつ深淵な基礎知識が試されます。しかし、その本質は「どれだけ多くの用語を暗記したか」ではなく、「各理論が心理学全体の中でどのような位置づけを持ち、互いにどう関連しているかを理解しているか」にあります。Meg心理師国試予備校では、単なる知識の羅列に終わらせず、心理学の全体像を体系的に整理し、異なる領域を関連づけて深く学ぶことで、記述式の問題にも対応できる応用力と論理的思考力を養います。
1. 心理学の根幹をなす5分野の徹底理解
心理学基礎は、人間行動と心の働きを多角的に捉えるため、大きく「発達」「学習」「認知」「社会」「臨床」の5つの主要領域に分かれます。もちろん、他の分類法もありますが、学習を進めるうえでは今回取り上げた5分野を中心に進めることで知識が整理されていきます。これらの分野をバランス良く、かつ相互に関連づけて理解することが、すべての応用力の基礎となります。
分野 | 概要と代表的なテーマ |
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発達心理学 | ピアジェ、エリクソンなど、人の一生における発達段階とその課題、心理的変化の連続性と不連続性の理解。愛着形成やアイデンティティの探求など。 |
学習心理学 | 古典的条件づけ・オペラント条件づけといった行動変容の基本理論。報酬と罰、般化と分化など。 |
認知心理学 | 情報処理モデルに基づいた、記憶・注意・思考・言語・メタ認知といった心的プロセスの構造と機能に関する理論。AIとの関連も深い。 |
社会心理学 | 個人が社会の中でどのように振る舞うか、集団・同調行動・認知的不協和、対人魅力、態度変容、対人認知のプロセス。 |
臨床心理学 | 心理療法・カウンセリング技法、パーソナリティ理論、心理査定(アセスメント)、精神病理の理解と介入。心の健康の維持・回復。 |
2. 理論を「人物・時代・思想」で結びつける歴史的アプローチ
用語や理論を単発で暗記する学習は、すぐに限界を迎えます。重要なのは、その理論が生まれた背景、つまり「誰が、いつ、どのような問題意識を持って、どのような思想的影響の下で生み出したのか」を知ることです。例えば、認知心理学は第二次世界大戦後の情報科学、特に情報処理モデルやコンピューター科学の発展から強い影響を受けたと言われています。このように歴史的文脈と思想的背景を押さえることで、知識は孤立せず、有機的に体系化され、長期的な記憶として定着します。理論の共通点と相違点を比較検討する視点も養われます。
3. 用語を「文脈で使える」実践的なアウトプット学習
大学院入試では、単に「〇〇とは何か」を問うだけでなく、「〇〇理論を具体例を挙げて説明しなさい」「△△という事例に対し、どのようにアセスメントを進めるべきか」といった、論述形式・応用形式の問題が多く出題されます。このため、用語を説明できるだけでなく、具体例を添えて論理的に語れることが合否の鍵となります。Megでは、厳選した頻出キーワード100語を「定義+提唱者・理論+具体的な事例」の三点構造で整理し、インプットした知識を使える知識(アウトプット可能な知識)として確実に定着させるための訓練を重視しています。
4. 忘れてはならない心理学の「倫理と人間観」
心理学の基礎を学ぶ最終的な目的は、人を多角的かつ深く「理解するための視点」を得ることにあります。単なる学説を知識として頭に入れるだけでなく、「その理論が人間をどのような存在として捉えているのか」という人間観(ヒューマンイメージ)を意識することが重要です。この深い人間理解の方法論が身につくと、研究計画の立案や臨床面接での共感的態度に説得力が加わり、説得力のある論述へと繋がります。倫理観は、研究・臨床のすべての土台となります。
5. 頻出心理学用語10語とその解説(計50語追加)
📝発達心理学(Developmental Psychology)
用語 | 解説 |
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愛着(Attachment) | ボウルビィが提唱。乳幼児と養育者の間に形成される永続的な情動的結びつき。その質が後の対人関係に影響する。 |
最近接発達領域(ZPD) | ヴィゴツキーが提唱。子どもが一人では解決できないが、他者の援助があれば解決できる領域のこと。 |
シェマ(Schema) | ピアジェの認知発達理論の概念。外界を理解し、対応するための行動や思考の枠組み(構造)。 |
アニミズム(Animism) | ピアジェの感覚運動期に見られる、無生物にも命や意識があると考える思考様式。 |
アイデンティティ拡散 | エリクソンの発達段階における青年期の課題。「自己とは何か」が定まらない状態。 |
レジリエンス | 深刻な状況においても、適応的な機能を維持しようとする現象。 |
モラトリアム | エリクソンが提唱。社会的役割や職業を決定する前に、猶予期間として様々な探索を行う期間。 |
通過儀礼(Rites of Passage) | 人生における重要な発達段階(成人など)の移行を社会的に承認する儀式。 |
内的作業モデル(IWM) | 愛着関係を通じて形成される、自己と他者、および両者の関係性についての無意識的な信念や期待。 |
ピアジェの認知発達段階 | 感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の4段階からなる認知発達のモデル。 |
🧠学習心理学(Learning Psychology)
用語 | 解説 |
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オペラント条件づけ | スキナーが提唱。自発的な行動(オペラント行動)が、その後の結果(報酬や罰)によって増減すること。 |
強化(Reinforcement) | 行動の生起頻度を高める操作のこと。正の強化と負の強化がある。 |
消去(Extinction) | 条件刺激(CS)のみを提示し続け、条件反応(CR)が生じなくなるプロセス。 |
トークン・エコノミー | 好ましい行動に対してトークン(点数など)を与え、それを様々な報酬と交換させる行動療法の技法。 |
般化(Generalization) | ある特定の刺激に対して学習した反応が、それと類似した刺激に対しても生じること。 |
弁別(Discrimination) | 類似した複数の刺激の中から、特定の刺激にのみ反応するようになる学習。 |
シェイピング(Shaping) | 目的行動に徐々に近づく行動を段階的に強化することで、複雑な行動を形成する技法。 |
モデリング(Modeling) | バンデューラが提唱。他者の行動を観察し、それを模倣することで新しい行動を学習すること。 |
レスポンデント条件づけ | パブロフが提唱。中性刺激が、無条件刺激と対提示されることで条件刺激となり、条件反応を引き起こすようになること。 |
自発的回復 | 消去成立後に休息を与えると、条件反応の回復が見られること。 |
💡認知心理学(Cognitive Psychology)
用語 | 解説 |
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ワーキングメモリ | 短期的な情報保持と、その情報を使った処理や操作を同時に行う能力。思考や推論の基盤となる。 |
長期記憶(LTM) | 保持容量に限界がなく、情報を長期にわたり保持するシステム。エピソード記憶、意味記憶などを含む。 |
スキーマ(Schema) | シェマを参照。知識が組織化された枠組み。新しい情報理解や記憶の検索に影響する。 |
ヒューリスティックス | 迅速な意思決定や問題解決のために用いられる、経験則に基づく簡便な思考の近道。バイアスの原因にもなる。 |
メタ認知(Metacognition) | 自分の認知活動(思考や記憶など)そのものを客観的に把握し、制御する高次の認知機能。 |
プライミング | 先行する刺激(プライマー)の処理が、後続する刺激(ターゲット)の処理に影響を与える現象。 |
注意の瞬き(Attentional Blink) | 短い間隔で提示された二番目の標的刺激が、最初の刺激処理のために見落とされてしまう現象。 |
展望的記憶 | 将来行うべき行動や予定を覚えておき、適切なタイミングで実行する記憶。 |
エピソード記憶 | いつ、どこで起こったかという時間・空間的な文脈を伴う個人的な出来事の記憶。 |
意味ネットワーク | 概念や知識が、関連性に基づいたネットワーク構造として長期記憶に保持されているとするモデル。 |
👥社会心理学(Social Psychology)
用語 | 解説 |
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認知的不協和 | 自分の持っている認知(信念、態度、行動)間に矛盾が生じた際に生じる不快な状態。解消のために態度を変容させやすい。 |
準拠集団(Reference Group) | 自分の態度や行動、価値観を決定する際に、比較の対象や規範の源として参照する集団。 |
社会的ジレンマ | 個人の合理的な行動が、集団全体にとっては非合理な結果をもたらす状況。 |
傍観者効果 | 周囲に多くの他者がいる状況で、緊急事態にある人への援助行動が抑制される現象。責任の分散が原因とされる。 |
原因帰属(Attribution) | 他者や自分自身の行動や、出来事の結果が、何によって引き起こされたかを推論するプロセス。 |
自己呈示(Self-Presentation) | 他者に与える印象を操作し、自分を意図的に表現する行動。 |
同調(Conformity) | 集団の規範や圧力によって、自分の意見や行動を多数派のそれに合わせること。 |
ステレオタイプ | ある集団に属する人々に対して、共通して持つ画一的で固定的なイメージや信念。 |
内集団バイアス | 自分が所属する集団(内集団)を、他の集団(外集団)よりも好意的に評価する傾向。 |
態度変容 | ある対象に対する評価的な傾向(態度)が、説得や経験などによって変化すること。 |
🛋️臨床心理学(Clinical Psychology)
用語 | 解説 |
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インテーク面接 | 心理臨床の最初の段階で行われる面接。来談経緯や主訴、現在の状況などを聴取し、援助の導入部を確立する。 |
ラポール(Rapport) | クライエントとカウンセラーの間に築かれる、信頼と共感に基づく相互の安心できる関係。治療の基盤。 |
転移(Transference) | クライエントが、過去の重要な人物(親など)に対して抱いた感情や態度を、無意識的にカウンセラーに向ける現象。 |
逆転移(Countertransference) | カウンセラーが、クライエントの転移や言動に対して、無意識的に過去の経験から生じる感情や態度を抱くこと。 |
面接構造化(Structuring) | 面接の進め方、目的、ルールなどを明確にクライエントに伝えること。特に初期段階で重要。 |
共感的理解 | カウンセラーが、クライエントの主観的な世界を、あたかも自分自身のように感じ取る姿勢。カール・ロジャーズが重視した。 |
アセスメント | 心理検査や面接を通じて、クライエントのパーソナリティ、病理、適応状況などを多角的に評価するプロセス。 |
支持的アプローチ | クライエントの自我の弱さを補強し、不安や混乱を軽減させ、現実適応能力を高めることを目的とした心理療法のアプローチ。 |
認知再構成法 | 認知行動療法における主要な技法の一つ。非適応的な自動思考や信念を特定し、より現実的で適応的なものへと修正する。 |
行動分析 | 行動の生起に影響を与えている環境要因(先行条件と後続結果)を詳細に分析する、行動療法の基盤となる手続き。 |
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作成者:Meg心理師国試予備校スタッフ
【公認心理師】新田 猪三彦(にった いさひこ)
2007年より心理学や脳科学の講座を行い、医歯薬専門予備校で受験に必要なメンタルの強化法、保育士会調査研究委員会において「保育士・保護者のコミュニケーション講座」、市民と協働によるまちづくり提案事業、産学官包括連携事業などを行っている。
九州朝日放送運営のマイベストプロ福岡でコラムの執筆にも携わり、一人でも多くの人が心が豊かに生活できるように情報を発信している。
また、部活動のメンタルトレーニング、学校を中退した学生の受験・学習支援、受験を見守る保護者の相談、資格試験合格のためのモチベーション管理、タイプ別による学習法のアドバイスなども行っている。
<略歴>
公認心理師 /ふくおか成年後見センターさくら / 福岡コミュニケーションカレッジ講師 / PMD医歯薬専門予備校心理カウンセラー / 日本心理学会認定心理士 / 日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー / 文部科学省所管生涯学習開発財団(神経言語プログラミング)協会認定マスタープラクティショナー / ICA(国際コーチ協会)認定コーチ / カナダSuccess Strategies・Shelle Rose Charvet認定LABプロファイリング・プラクティショナー
・LINEトークCAREカウンセラー
・メンタルゼミ