【国家試験 総評】第7回公認心理師国家試験解説
これまでの公認心理師試験の問題を振り返ると、マニアックな問題、特定の分野に対して深い知識を持っていないと解けない問題、詳細な情報を知らないと正解を判断できない問題が目立つ時期がありました。
心理検査の細かい知識が問われたり、医療系の問題が多く医療従事者でも難しいと感じる問題が出題されたりもしました。年度によって出題内容にばらつきを感じていた受験生もいたようですが、第6回、第7回と回数が増えるにつれ、一定の傾向も見えてきました。
まずは、これから公認心理師試験を受ける人に向けて、公認心理師試験の概要から説明していきます。
公認心理師試験の概要
試験日
3月上旬頃(第7回公認心理師試験より)
試験時間
午前の部(10:00~12:00)・午後の部(13:30~15:30)
問題数
午前の部/一般問題(58題)/事例問題(19題)/合計(77題)
午前の部/一般問題(58題)/事例問題(19題)/合計(77題)
午前・午後の合計/一般問題(116題)/事例問題(38題)/合計(154題)
配点
一般問題(各1点)/問題数(116題)/合計得点(116点)
事例問題(各3点)/問題数(38題)/合計得点(114点)
総得点(230点)
合格基準
総得点(230点)の60%程度以上を基準とし、問題の難易度で補正するという考え方を基に決定
第1回~第7回までの合格最低点
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 第6回 | 第7回 | |
合格点 | 138点 | 138点 | 138点 | 143点 | 135点 | 138点 | 138点 |
得点率 | 60% | 60% | 60% | 62.2% | 58.7% | 60% | 60% |
全問マーク式
試験地
東京都 大阪府(第6回公認心理師試験より)
※第1回~第5回までは7都道府県〜11都道府県で実施されていたが、第6回からは東京都と大阪府のみになっているので、地方受験者は注意が必要。
第7回公認心理師試験の傾向
心理検査はカットオフ値など細かい数値よりも、どんな場面でどんな人に対して行うかを考える!
第4回公認心理師試験までは、カットオフ値(分割点,あるいは病態識別値。病態を識別するための検査・測定に用いられ,基準範囲を基本として正常とみなす範囲を決めるとき,その範囲を区切る値)の検査結果が数値で示されており、受験生の中には、検査結果の数値を覚えることに苦労していた受験生もいたかと思われます。しかし、第5回以降は、カットオフ値の具体的な数値までは出題されていなません。
第2回公認心理師試験(問139)
74 歳の女性。単身生活で、就労はしていない。最近物忘れがひどいと総合病院の内科を受診した。内科医から公認心理師に心理的アセスメントの依頼があった。精神疾患の既往歴はなく、神経学的異常もみられない。以前から高血圧症を指摘されていたが、現在はコントロールされている。頭部 CT 検査で異常はなく、改訂長谷川式簡易知能評価スケール+HDS-R,は21 点であった。この時点で公認心理師が行う心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① CAPS
② CPT
③ MMPI
④ WMS-R
⑤ Y-BOCS
第2回公認心理師試験(問140)
22 歳の女性 A。A は職場での人間関係における不適応感を訴えて精神科を受診した。ときどき休みながらではあるが勤務は継続している。親と仲が悪いので年前から単身生活をしているとのことである。公認心理師が主治医から心理的アセスメントとして、YG 法、BDI-Ⅱ、WAIS-Ⅳの実施を依頼された。YG 法では E 型を示し、BDI-Ⅱの得点は19 点で希死念慮はない。WAIS-Ⅳの全検査 IQ は98 であったが、言語理解指標と処理速度指標との間に大きな差があった。公認心理師が引き続き行う対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① MMSE を実施する。
② 田中ビネー知能検査Ⅴを追加する。
③ 家族から情報を収集したいと A に伝える。
④ 重篤なうつ状態であると主治医に伝える。
⑤ 生育歴についての情報を A から聴き取る。
第7回公認心理師試験(問139)
21 歳の女性A、両親と同居中。アルバイトが長続きせず、家に閉じこもっていることを心配した親に連れられて、精神科クリニックを受診した。Aによると、小学生の頃から人前で話すのが苦手で、中学、高校でも、人から見られていると思うと強い不安を感じ、学校も休みがちであった。アルバイトでは、他の従業員が集まっているスタッフルームに後から入るときや、昼休みの雑談のときなどに特に緊張が高まって、欠勤してしまうことが増え、アルバイトを辞めてしまうことを繰り返していたという。Aの病態評価のために行う心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① CARS
② LSAS-J
③ PDSS
④ POMS
⑤ SDS
第7回公認心理師試験(問146)
10 歳の男児A、小学 4 年生。Aの保護者Bが発達の遅れを主訴として、Aと共に教育センターに相談に訪れ、Aに WISC-Ⅳが実施された。その結果は、全検査 IQ や全ての領域で低い(境界域)水準にあり、4つの指標得点に有意な差はなかった。そのアセスメント報告書を基に、Aの小学校のスクールカウンセラーCが、AとBにそれぞれ面談を行った。Aはリラックスして、学校生活についてCに話してくれた。Bは、今後、A が学校に行きたくないと言い出したりするのではないかと心配していた。Cが、Bの話に基づいて、学校生活に結び付くAの傾向をアセスメントするために用いる心理検査として、最も適切なものを 1つ選べ。
① GHQ
② KABC-Ⅱ
③ MMPI
④ TEG
⑤ Vineland-Ⅱ
(引用:日本心理研修センター https://www.jccpp.or.jp/Top.cgi)
心理検査に関する事例問題を第2回公認心理師試験、第7回公認心理師試験からそれぞれ2問ずつピックアップしています。第2回公認心理師試験の問題では、具体的な数値が記載されていますが、第7回公認心理師試験では、具体的な数値について記載がありません。
今後も同じような傾向が続くのではないかと思われ、検査名や検査を行う理由については覚える必要はありますが、細かい数値までは気にしないで良いのではないかと考えられます。
心理検査をどんな場面で、どんな人を対象に行うのか、なぜその心理検査を行うのか本質的な部分をしっかり学習しましょう。
事例問題でも心理学の知識と活用場面の理解が必要!
一般問題は配点が1点であるのに対して、事例問題は配点が3点です。そのため、事例問題で正解数を増やし、得点源にしたいと考えている人も多いのではないでしょうか。事例問題は第5回公認心理師試験から文章量が増えている傾向にあります。第4回公認心理師試験は合格最低点が143点(得点率62.2%)と第1回~第7回までの試験の中で一番高い合格最低点になっていますが、このひとつの要因として、事例問題の一部が比較的解きやすい問題、国語の読解力があれば解ける問題であったことが考えられます。そのため、第5回以降は、文章量が長くなり、心理学の知識をしっかり理解しているかを問う問題が出題されています。
第4回公認心理師試験(問63)
公認心理師 A が主演者である学会発表において、実験結果の報告のためのスライドを準備している。実験の背景、目的、結果、考察などをまとめた。A は他者の先行研究で示された実験結果の一部を参考論文から抜き出し、出所を明らかにすることなく自分のデータとして図を含めてスライドに記述した。このまま発表する場合、該当する不正行為を1つ選べ。
① 盗用
② 改ざん
③ ねつ造
④ 多重投稿
⑤ 利益相反
第7回公認心理師試験(問73)
23 歳の男性A、小学 3 年生の担任教師。Aは、担任する学級の男児BについてスクールカウンセラーCに相談した。Aによると、Bはゲームが得意で、Aや他児と休み時間にゲームの話をすることが好きである。しかし、最近は、ゲームに登場するキャラクターの話を他児の様子も気にせず一方的に話し続け、他児はBとの関わりを拒否するようになってきている。また、Bは自分の思い通りにならない場面で、怒って授業中に教室外へ飛び出すことがよくあるという。Cは、Aの授業を観察後、AにBの支援に関する校内委員会での検討を勧めるとともに、Bや学級への具体的な支援について助言を行った。CのAへの助言内容として、最も適切なものを1つ選べ。
① Bを除く学級全体で怒りの対処について話し合う。
② Bが教室外に出ようとしたときにその都度強く注意する。
③ ゲームのキャラクターのことについて学級で話をしないようにBに注意する。
④ 教室を飛び出したくなった際の対処の仕方やルールについて、Bと個別に話し合う。
(引用:日本心理研修センター https://www.jccpp.or.jp/Top.cgi)
第4回公認心理師試験の事例問題と第7回公認心理師試験の事例問題をピックアップしていますが、第7回公認心理師試験の方は文章量が増え、問題文から情報を収集する能力が問われています。もちろん、第1回~第4回までの事例問題にも文章量が多い問題はありますが、割合は多くありませんでした。
しかし、第5回からは、文章量が増え、基礎的な心理学の知識や公認心理師としての職責を理解して考える必要がある問題が増えています。今後もこの傾向は続く可能性があり、事例問題においても心理学の知識、公認心理師の職責を考えて選択肢を選ぶ問題が出題されるのではないかと思われます。
公認心理師としての役割をしっかりと理解し、学習を進めていきましょう。
公認心理師試験の勉強は、過去問とブループリントを中心に!
過去問を振り返ると、ソーシャル・スキルズ・トレーニング、認知行動療法、関与しながらの観察など繰り返し出題されている用語があります。また、同じ用語ではないものの、過去に出題された問題と関係のある分野からの出題も多くみられます。
もちろん、例年、個人情報に関する問題や身体の機能、細かい法律問題など難易度が高く、受験生にとって学習時間を多くとる必要があるものの、得点に結びつきにくい問題も存在します。重要なことは、細かい知識にとらわれず、心理学のテキストに記載されている基礎的な用語、知識を覚えることです。
さらに、過去問を繰り返し解くことで、「この問題は必ず解く」、「この問題は捨てる」というような判断ができるようになります。
また、日本心理研修センターが発表するブループリントをしっかり確認しましょう。ブループリントには出題される内容が書かれており、ブループリントの用語を中心に勉強することで、試験問題を解くための基本的な内容を学習できます。
【公認心理師】新田 猪三彦(にった いさひこ)
2007年より心理学や脳科学の講座を行い、医歯薬専門予備校で受験に必要なメンタルの強化法、保育士会調査研究委員会において「保育士・保護者のコミュニケーション講座」、市民と協働によるまちづくり提案事業、産学官包括連携事業などを行っている。
九州朝日放送運営のマイベストプロ福岡でコラムの執筆にも携わり、一人でも多くの人が心が豊かに生活できるように情報を発信している。
また、部活動のメンタルトレーニング、学校を中退した学生の受験・学習支援、受験を見守る保護者の相談、資格試験合格のためのモチベーション管理、タイプ別による学習法のアドバイスなども行っている。
<略歴>
公認心理師 /ふくおか成年後見センターさくら / 福岡コミュニケーションカレッジ講師 / PMD医歯薬専門予備校心理カウンセラー / 日本心理学会認定心理士 / 日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー / 文部科学省所管生涯学習開発財団(神経言語プログラミング)協会認定マスタープラクティショナー / ICA(国際コーチ協会)認定コーチ / カナダSuccess Strategies・Shelle Rose Charvet認定LABプロファイリング・プラクティショナー
・LINEトークCAREカウンセラー
・メンタルゼミ